1.未来語り

 
2.Ruin of Ideal
 
歯車が軋むからくり仕掛けの世界で
働く僕等は一つの部品に過ぎぬ
大差も無く替えも効いて
歯が欠ければ要らなくなるから
生命の時計が止まるまで動き続けるだけ
煙る蒸気で曖昧に 照らす日の光も朧げに
煤けた心離さずに 僕等の鼓動で時を刻む
 
鉛の体を起こして 声のする方へ
欠けた部品たち 鋳れば弾丸に変わる
腰には革のホルスター 強い意志だけを武器にしても
真鍮は金になれず 紛い物に変わりなく
美しい骨董品も 積み重ねればガラクタの山
どんな綺麗な過程でも 何も無い虚しい結果を生む
 
あの日の君の言葉 まだ宝石のまま
誰かの生の灯火で  僕は安穏に暮らしている
光り輝く貴石には 僕はなれず錆び朽ち果てていく
 
遠く霞む廃墟塔
 
3.まだ見ぬ理想郷
 
日に日に高さ増していく 見上げても先端見えず
だがレンガは尽きることなく この塔はいつ出来上がる
ろくな食べ物食べられず ぼろ小屋に押し込められる
働けども搾取される 休みの意味忘れている
 
例え出来上がっても 違う場所に行くだけ
命令に従え 領主様は絶対だ
 
暗く俯く僕に 何故か手が差し伸べられる
「私は領主の娘だけど味方よ」と
「私達この社会は間違っていると思うの
誰もが幸せになる権利がある
君たちをその立場からいつか救い出してみせるわ
その為ならお父様にさえ逆らう覚悟」と
 
君の絵空事を 信じる余裕なんて
僕にはとても無いけど 忘れていない
学生仲間と論じる 君の願う理想の世界
強く聡明な君なら 少し期待していた
 
 
4.諦観階級
 
「貴方が彼らを 使役する権利 
そんなものはない」
「彼らを自由に」 訴えたところで
領主が築いた富を 捨てるはずもない
積み重ねた高い金貨の 塔を崩すわけもない
例えそれが正しいとして 君に何が出来るのだろう
権力も地位もない人間の 主張では世界は変えられないのに
 
展望階から 墜ちる君を見た
誰もが事故だと 疑いもしない
 
僕だって君の意志を みんなが幸せな世界を
作り上げたいけれど 出来るはずもない
 
この広い空は飛べぬなら 僕らも自由になれないなら
権利や平等の言葉なんて 僕には関係のない話だ
君の掲げた理想では 生き抜いていけないと
僕自身を正当化して ごまかし目を背けて生きていくだけ
 
5.Vapory Virtue
 
消えた君の思い出に いつまでも浸るわけにはいかない
どうせ戻らぬのだから うずくまり死を待ってもしょうがない
正しい言葉を唱える幻を振り切り 不可欠だからと過ちを繰り返す
生きるためただがむしゃらに ひとのものすら奪い取れ
追いかけてくるものには盗んだ 銃の引き金さえも引く
 
例え弱い立場でも 集まれば次第に仲間は増えて
僕は彼等を率いる 先頭で指示をする長になった
なかったはずの身分の差が生まれて 
かつての友が鞭を振るうのを黙って見ていた
富も名誉も手に入れた 虐げられることない
僕の下で誰が苦しもうと これが幸せと信じて
 
領主が捨てた 聳え立つあの塔は
荒廃の後 廃墟塔と呼ばれた
十年あまり忘れ去られていたが
再び開発の計画が  
それを進める 権利も今や僕の手の中
 
「地位も権力もあるのに 何も変えないじゃないか」と
少年の自分に苛まれて 逃げても逃げ切れない
「君もお父様と同じね」 君が耳元で囁く
気づけば僕もまた僕の 嫌いな大人になっていく
 
 
 
6.そして、再び、廃墟塔
 
この広い空は飛べぬと分かっていながら 
見えない声に背中押されるままに 
一人靴を揃えあの日の君の場所へ
忘れかけた君の言葉を思い出す
 
行き先の見えない道を必死に歩んだ 
君の言葉だって僕の進んだ道も
積み重ねられ埋もれていく ただガラクタへ 
姿を変えて誰の記憶からも消えていく
 
差しのべられたその手にすがらず振りほどいても 
なるべき自分にはなれなくて錆び朽ち果てていく
 
あの日君ともう少し話しておけばと
今さら後悔しても戻ってはこないのに
 
僕だって十分恵まれているはずでしょう
なぜ虚しくなるのか
 
「この塔は死を呼ぶ、不吉だ触れてはならない」と
人々は噂し そして再び廃墟塔へと
 
7.遮る疑惑
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