2.病感以後、病識以前

不幸せと幸せとが
せめぎあい雨を降らせる
見つめた暗い空に
世界の終わりを求めている
窓ガラスにへばりついた
雨粒は乾いた涙
離れて君を見れば
不可視のそれを感じた
君に惹かれた僕の事を
許してはくれるのかな
僕達が出会った事
それこそ悪夢の始まり
名も無き病に冒され続けて
戻れぬ場所へと足を踏み入れる
互いの隙間を埋めあうが如く
孤独な僕らは依存の闇へと染まっていく


水溜まりに起きた波紋
次第に不安が伝わる
広げた傘の奥に
自分の本音を隠している
保健室の軋むベッド
耳を澄ませば積み上げた
全ての積み木達が崩れる音が聞こえた
まだ対岸の貴方の事
道連れにしたくはない
貴方の手縋り付いた
それこそ私の過ち
みんなの『普通』を果たせぬばかりに
あらゆる希望を拒絶し続ける
虚無感のベール包まれ私は
恋愛を模した甘美な沼へと沈んでいく


二人の病の名前が異なる事実は
確かに認識している
逃避の為にと君の手掴んで
果てない虚しさ孕んだ道へと進んでいく
何処にも永遠と言えるものなど無いこと既に知っている
行き着く結果に気付いていながら
二人は儚く輝く《瞬幻》へと溺れていく


3.Invitation from…

空席目立つ机が一つ
顔も余りよくは知らない
時々ふらり来て去っていく
謎めいたその娘が気になる
今までに読んだ本や漫画のどんなヒロイン達より魅力を感じて
憂いを帯びた表情に
風になびく艶やかな黒い髪の額縁
袖口から覗く手首
何処か暗い影を纏った彼女に惹かれていく


近寄り難い雰囲気を出し
誰一人声など掛けない
何かが落ちた音に気付いて
拾ったのはあの娘の手帳
ただ渡しただけなのに
何故だか彼女を見つめてしまい、すぐに目反らした
下駄箱の中に手紙が
今日放課後屋上で待っていると一言
突然の招待状に誘われ
扉の向こうに微笑む彼女が居た

繰り返す逢瀬 誰にも内緒
二人きりの屋上で
次第に近付く
他愛ない会話をして
一緒に笑ったり悲しんだりした放課後
想像の世界籠ってばかりいた僕には戸惑い隠せぬ初恋
手を繋ぐだけで幸せだった筈なのに嫌な予感のする
暗い空が

 

4.トワイライト

君が苦しむこの教室を抜けて
あの屋上階向かえば
喜ぶことも悲しむこともなくて
ただ無表情で待っている
ほらこんな風に指絡めたならこの愛は伝わるの?
僕らの恋はまだ幼くて
君の気持ちさえ分からずに
苦しむ君をただ抱き締めているしか出来なかった


貴方は駆けて私の元へ
何もかもを投げ捨てて来ている
この私でも傷だらけでも
なおも好きだと言うから嬉しかった
ほらいつも通り唇重ねたら気持ちは伝わるの?
私を愛している貴方に
上手く感謝さえ出来なくて
見えぬ恐怖をその温もりで誤魔化し続けていた


暮れる放課後、二人の時間
「帰れ」と叱咤の声響き
お前は彼女に何が出来る?
疑念が募っていく
この学び舎もあの先生も
君の傷から目をそらして
僕らに居場所なんてないから
さよならを告げるだけ
二人、行き場を無くして

 

5.延長線上の日常


4時を指す時計の針
朝焼けが忌々しく
寂しさで眠れなくて
最後の返事は0時頃
来るはずのない返事を待ち
ふと手に取ったカッターナイフで
傷を増やそうとしたけど
そんなことに意味なんてない
血を流してみても変わらない
生きる価値など何処にもない
痛みのない場所へ消えていきたい


雲の切れ間の日差しが
私を焦がし続ける
長袖を脱げないから
教室で一人浮いている
急に居心地が悪くなり
隠れて薬瓶の錠剤を
口の中に詰め込むけど
そんなことじゃ強くなれない
量を多くしても変わらない
生きる意味などここにはない
貴方と共に何処か逃げ去りたい


貴方と居る時が
一番幸せすぎるからなんだか怖くなる
貴方のそんな顔
見たくはないけど
私が一人悪い子だから

私の価値は少しもない
褒められても理解が出来ない
幸せが続くはずがない
出来ることならば死んでしまいたい


6.Collapse


気付いていた君の自傷行為に
繰り返すけど死に結びつかず
僕はそれが上手く理解出来ずに
ただ困惑し見つめていた
「私を愛しているならば願いを聞いて」と
そう君は小さく呟く
「一緒に死んでくれない?」
この世界に救いはない
愛を確かめる術すら
知らないから
誰も信用出来ない
天国など信じていない
恋の熱が冷める前に
終わらせよう
向かうは先にある最期


その言葉に僕は驚いたけど
漠然とした甘い死の香り
でもこのまま大人の下す評価
怯え続けるくらいならば
二極思考に揺れる
君の笑顔の裏側
毎日苦しんでいたから
もう後戻り出来ない
少しずつ買って集めた
幾箱もの睡眠薬と頭痛薬
順に箱を開けていく
薬を共に流し込む
薄れていく意識の中
満足げに微笑む君を見た最後

いつか卒業したら一緒に暮らしたいねとか夢を話したりした
僕たちの恋の終わりはこうなったけれどきっとこれで良かった

目覚めたのは硬いベッド
眩しすぎる蛍光灯
響き渡る規則的な電子音
視界には白い天井
僕が死んでいないならば
きっと君も
明日には会えるはずだろう


7.弔鐘

夏がすぐそばにある
空が無駄に青くて
君はここにはいない
何処か遠い所に
僕だけが生き残り君の葬儀
制服の檻の中 涙流す
どうやって生きていけばいいの?
君が居ないこの世界
たった一人で
どうすれば君を助けられた?
その術はまだわからず
今も考え続ける

きつい日差しが焦がす
まるで責めるかの様
無理もないこと
僕のせいで君をなくした
君の顔君の声昨日までは
少しだけだったけどあの笑顔も
僕だけが君の分までなど
生きていける訳がない
君を残して
本当に君を救えなくて
君を助けられなくて
無力さを悔やんでいる

心中という術選ばなくてもよかった
例え辛くても二人ならば
もう遅いけど

誰一人泣かない葬式で
僕だけが泣き続けるたった一人で
制服や教室という檻
鉄格子から助けを求める声が聞こえる

どうかまた二人で

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